BOY’S VOICE 新・永遠の少年たち

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映画「ソウォン/願い」 悲劇の中の一筋の希望 

この映画については、全く予備知識もなく、WOWOWでの放送スケジュールでちょっと興味を引かれて見たものでした。2013年公開の韓国映画ということで、比較的最近の作品ですが、あまり耳にしたこともなかったので、大した期待もしないで見たのですが、いやはやとんでもない映画でした。


あらすじ:父親は工場で働き、母親は雑貨店を経営しながらも、生活には余裕がない家庭に生まれた、8歳の少女スウォン。ある日のひどい雨の中、遅刻気味で独り傘を差しながら登校するスウォンの前に立ちはだかる怪しげな一人の中年男性。やがて両親の前に現れたのは、病院に緊急搬送された娘の、信じられないほどの血まみれで傷ついた姿でした。


たった数時間の”魔”の出来事で、貧しくても幸せだった家族が地獄のような日々を送ることになる。激しく暴行され、心身ともに傷つけられて心を開かなくなった娘と、なんとか少しでも心を通い合わせたいと願う父母の格闘。周囲の支えを丁寧に描いた作品です。犯人が逮捕され、裁判に出頭するところも描かれていますが、決してめでたしめでたし、というわけではないシビアな現実も投影されています。


見終わって調べてみたところ、2008年に韓国を震撼させた「ナヨンちゃん事件」という幼女暴行事件を元にしていた映画だったのです。この事件、当時も痛ましさ(というか犯人の猟奇性はおぞましすぎて非人間的なレベル)が際立っていたのですが、改めて詳細を確認したら、もうあまりにも卑劣極まりなく救いようのない事件で・・・。


そして、韓国映画ということからも分かる通り(笑)、少女ソウォンが暴行にあう描写のエグさは相当なものでした。とても幼児を持ってる母親なら正視できないくらいショッキングな映像(一瞬ですが)が流れます。事件直後のソウォンの傷跡も生々しく見てるだけで痛みや悲しみが伝わってきます。


でもこの映画はとんでもなく痛いからこそ、その試練を乗り越えようと踏ん張る家族の姿が感動的に見える、という美点があります。そして、克服しようとして何度も涙する家族を、ちょっとおせっかいだけども精一杯支援しようとする韓国の人々の優しさも忘れられない、人情映画なのです。


実際の事件では、そこまで周りのフォローが素晴らしかったわけではないようですが、だからこそ映画の中では、「こうであって欲しい」「こうありたい」という強い製作者達の思いがあったのでしょう。


【これが日本映画だったらどうなるか】


実際には、韓国のみならず日本でも同じような暴行事件は日々起こっているんだと思います。中には、事件の性質上、泣き寝入りしている家族も沢山いるでしょう。また、つい先日、日本でも騒がれた川崎中一殺害事件のように、信じられないような残酷な事件も数多くあります。事件の質という点では、どこの国でも同じようなことが起こり得ると思うと、映画を見ていても他人事とは思えませんでした。


一方で、この手の映画、日本映画だったらどう作るだろうな?と想像してしまいました。私は邦画の淡々とした作風も好きですし、激情から一歩引いているような客観的な風合いも、結構好きです。それだけに、余計にリアリティから離れて、どれだけ作品性が薄まってしまうかも、予想がつきます。


「ソウォン」での母親は、娘の怪我を知って、半狂乱のようになって髪を振り乱し、ボロボロになって叫びまくってますが、日本の女優さんだったらヤツれているくらいでここまで醜態を見せないでしょうね。むしろ、グッと耐えて言葉を出さず涙をポロポロと流す・・・。


そして残酷なシーンも生々しい映像ではなく、もっと抑えた感じの不気味な映像で、どこかホラーの風合いを出すんではないかな。そして、娘の怪我メイクももっと包帯で隠して、あまり血なまぐさくしない。父親が見せた犯人への復讐心や「どうしてこんなことになったのか!」という理不尽さを嘆く怒りの発露もなく、ひたすら家族の再生ドラマに力点を入れるでしょう。


大体において、まず誰にも知られない場所に引っ越しするでしょうね(苦笑)。引っ越せなかったら、できるだけ何事もなかったように沈黙を貫いて、娘は転校させるか自宅に留めおく、のではないか、と思ったり。そして、過去は消えないけれど、少しだけ前向きに生きよう、という爽やかなラストに仕上げて、観客は「いい映画だったね」と予定調和的に映画館を後にする、という。


今、書きながら、日本映画「誰も守ってくれない」を思い出しました。そうそう、こんな感じじゃないかな(笑)。毒にも薬にもならない”優しい映画”ですね。そういうのも嫌いじゃないですが、きっと心の中には残らないでしょうね。


この映画では、ソウォンが入院生活の中で少しずつ安定していくのですが、それと合わせるかのように顔の怪我が癒えてくるサマはすごく印象的でした。縫合された傷なんかも、見るからに痛そうでしたし、抜糸後もテープでカバーしてるところとか。どこまでも本物っぽくて妥協がない。その妥協の無さが辛くも切なくもあるんですが。。。


きっと日本映画は、本気で”当事者に寄りそう”ことが怖いんでしょうね。だから、映画の中でも、どこか勝手な理想像を押し付けてしまう。映画の中ですら、痛みや苦しみを声高にアピールするのは耐えられないのかもしれません。見てるほうもそれを望まないだろう、と。そして、その程度でもOK、と満足しちゃう観客も同じ穴のムジナかもしれません。


映画「ソウォン」。痛いです、エグイです、めっちゃ悲しいです。もう何か見る始終、なんか救いようがない気分にさせられていたたまれない気持ちでいっぱいになります。それだけに家族愛の強さ、周りの人々のなんとか手を差し伸べたい、という思いに泣かされまくりです。傷ついた人にこそ、見てもらいたいかもしれません。


予告動画はこちら→映画『ソウォン/願い』予告編 - YouTube

blog.goo.ne.jp
事件や映画の背景についても詳しい解説があり、とても参考になりました。


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題名の「ソウォン」とは、韓国語で「願い」という意味なんだそうです。ソウォン役のイ・レちゃん、芦田愛菜ちゃんを思わせる名演でした。