BOY’S VOICE 新・永遠の少年たち

少年の声と少年文化に特化したブログです。

映画「ベルサイユの子」

泥だらけの天使・エンゾ少年の瞳が語りかける

ワケあり中年のフランス男が、汚れた顔の可愛い少年と手を繋いでいる写真・・・そんなチラシを見た時から、心惹かれた映画「ベルサイユの子」をようやく見ました。ホームレスと何の縁もない子供の心の交流、海外の映画にはよくある題材のロードムービーか、と思ったものの、なんか”それだけ”ではない魅力に溢れています。


どうでも良いのですが原題は、「Versailles」というのですね、この映画。同名のバンドが好きなだけに一瞬ビックリ。そして、日本人にも人気のベルサイユ宮殿が思わぬ形で登場するところもちょっと遊び心を感じました。背景に深刻な若者の失業問題*1があるのですが、それでもいろんなカタチで”救い”を見せてくれます。


あらすじ:エンゾは、5歳の男の子。無職でホームレス生活を送っている23歳の母ニーナに連れられて、あちらこちらの街を彷徨っている。ベルサイユ宮殿のすぐ隣の森でホームレス生活を送るダミアンという男性と知り合った親子だが、その翌朝、エンゾは森に置き去りにされてしまう。全くの他人だったエンゾに戸惑うダミアンだったが、生活を共にすることで、いつしか静かな父性愛に目覚めていく。


もちろん、この映画の肝は、子役マックス・ベセット・ド・マルグレーヴの愛らしさと乾いた表情です。子供をめたらやたらに泣かせない手法は、「誰も知らない」是枝監督を少し思い出させました。実の母親に置き去りにされても、自分の運命を静かに受け止めて最低限の愛情表現(寝る時に、手を握って!)だけを求める子供の姿に、いじらしさと逞しさを感じました。


どうしようもなく可愛くて天使のような無垢な表情を持っているマックス少年。それでいて時に、人の心を見透かすような表情を浮かべて強い存在感を感じさせます。汚れた服や土まみれの顔、不味そうな食事に不衛生な環境、それでも何故か「希望」を感じさせる森での暮らし。普通の家庭生活を送って綺麗な服を着た時の方が、不幸そう(笑)に見えるところがスゴイ。


単純なところでは、「フランスのホームレスは、森に棲家を作って暮らすのか〜」とか、福祉政策や認知制度の違いとか、今まで知らなかったこともさりげなく教えてもらえたし。相変わらず、フランス映画の台詞まわし(特に男女間)は、深遠すぎてさっぱり理解できないわ、と溜息したり。しかし、エンゾの淡白な視線を中心に置き、周りが自然に愛さずにはいられなくなっていく過程がとても素敵でした。


子供を置き去りにしていったニーナも、決して愛が無かったわけではなかったことや、一歩間違えば、もっと過酷な運命にさらされたかもしれないエンゾが、人々の善意に囲まれていくところが救いでもありました。但し、かといってエンゾがそう簡単に”無邪気な子供の姿”を取り戻すわけではなく、ダミアンとのホームレスの生活を恋しがるあたり、なかなかエスプリが効いてる作品です。


ダミアン役の男優ギョーム・パルデューは、この映画の完成後、急逝されたそうです。ラストシーン近く、どこかへと旅立つ後ろ姿がリアルに迫ってきました。


ベルサイユの子 [DVD]

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やっぱり子役を使った映画は、伝統的にヨーロッパが強い。全てにおいて”お子様”扱いしてないところが魅力。そしてエンゾや、最後にキミは一体どこにいくのか?!

*1:フランスでは以前、若者を中心としたかなり大規模なデモもありましたしね。