BOY’S VOICE 新・永遠の少年たち

少年の声と少年文化に特化したブログです。

鬼才・中島哲也監督の魔術と松たか子の怪演

すでに話題を巻き起こしている映画『告白』を見てきました。R−15指定、中学生の犯罪と娘を殺された女教師の復讐劇と聞くだけで、”血”の苦手な私は見る前からゲンナリとなっておりました。それでも、異例の大ヒットという宣伝文句や教室で松たか子さんが淡々と語る台詞に惹かれるものがあり、急に見る気になり・・・。


決め手は、『下妻物語』で私を狂喜させた映像の魔術師・中島哲也監督の存在。独創的な発想の連続だった『嫌われ松子の一生』でも唸らせただけに、彼特有の原色のど派手な映像美を抑えて、ダークな色彩で勝負したこの映画も、見る者の度肝を抜いてくれるだろうなあ、と想像しておりました。


しかし、反面あまりのネタの暗さに、重い気分で映画館へ向かったのも事実。実際、映画が始まってすぐに、いじめ、学級崩壊、携帯・ネットを使ったバーチャルな関係性など、”世紀末”な学生像がてんこ盛り。話には聞いてますし、テレビドラマでもよく描かれてますが、(確かめる術もない私には)こういった子供達の世界がリアルだとは信じがたい気分になります。


それでもこれは「大人の残酷な寓話」でもあるわけですから、そこは多少目をつぶって、と。しかし、あれこれ思う暇なく、どんどん物語に引き込まれていきました。軽快なテンポ、不釣合いな音楽、暗く残酷なシナリオ、救いようのない少年少女達・・・それを凌駕するのは、脳髄を心地良く刺激する究極の映像美でしょう。


女教師の松たか子嬢は、デビューした時から一貫したイメージ・スタイルですが、さすがに舞台をいくつもこなしてるだけあって、(予想より)出番が少ないのにインパクトありまくり。そしてまだ変声中で、あどけなさの残った容貌の少年A・B(犯人役)がまた可愛い。鍵を握る美少女・橋本愛ちゃんも、先日引退した宝生舞さんを思わせるような凛とした顔立ちで目を引きます。


もちろん原作の完成度の高さがあってこそ、でしょうけれど、こんな問題作をよくもまあエンターテイメント映画に仕上げたものだ、と感嘆したものです。エピソードの一つ一つが破綻してそうなギリギリのところで回ってるのに、全体を通して見ると伏線が繋がりまくって、まるで完成をみた傑作パズルのよう。とにかく見事としかいいようがありません。楽しんだなんて不謹慎なくらい残酷なのに、今までにないような不思議なカタルシスに襲われてしまいました。中島監督ってやっぱり天才としか言いようがありません。

【残酷な子供たち】


この「告白」で一番強いメッセージを受けたとすると、「命の重み」ということでしょうね。そのことを実感していないのは、何も現代の少年達だけではないでしょう。訳の分からない”ご都合主義”で、大量殺人や通り魔殺人、あるいは衝動的なリンチ事件など、毎日のように起こっている”平和なはずの日本”という国。


あまりにも身勝手で想像力が欠如しているため、自分が大切に思う人と同じ命の重みを他人が持ってることに無頓着な人々。また自分が誰かに大切にされてないと憤りを抱えて生きている人々。自分すら騙しながら、無関心を装う人々。どこかやり場のない閉塞した思いを持って生きてるのは、実は特別なことではなくて、自分にだってきっとその要素はあるのではないか、と。


他人が「人」ではなくてただの「モノ」として存在してるからこそ、何の躊躇もなく命を奪えるし、何食わぬ顔で平然と生きることも出来たりする。そういう殺人犯の非人間的な姿に、私達は戦慄を覚えるのですが、どうしてそんなことになるのか、という回答はなかなか出ないものです。犯人にとって、手を下した「モノ」が、かけがいのない「人間」だったと再認識した時に、ジワジワと自我が崩壊していく怖さと破滅。


その過程をこの映画でも淡々と描いていたと思います。いやむしろ、その堕ちていく過程、無様にあがく姿が最も人間らしく、そこには作者の”罪を自覚して欲しい・・・”という逆説的な「祈り」すら感じました。だからこの映画は、ただの復讐劇ではなく、登場人物が仮面を剥ぎ取って、真の人間らしさを取り戻していく、そんな物語にも見えたのかもしれません。


余談ですが、私もこういう少年性に特化した?ブログを作ってるだけあって、少年を題材にした映画は結構見ております。あまり声高に薦めるのも気が引けるような、暗い作品も少なからず見ております。こう言っては身もフタもないけれど、自分の子供時代を思い出すと、子供が純粋無垢なだけの生き物なんてのは嘘っぱちで、やはり子供って残酷な生き物だな、と体感することが多数ありました。もちろん、かくいう私自身も被害者ヅラして言えない部分がありますが(苦笑)。


ネットや携帯のない時代ですから、今ほどバーチャルないじめはなかったにしろ、暴言・暴力・いじめを毎日のように見ていて、今までの人生の中で一番キツくストレスの多かったのが小学生時代でした。そして、最近同窓会に出席して驚いたのが、あれほどまでに救いようの無く、ドロドロした子供時代(と思っていた)を、ほぼ全ての同級生達が「楽しく素晴らしい時代だったね。」と笑顔で語っていたこと。


もはや同じ年頃の子供を持つ親に立場を変えてる彼らにとっては、遠い記憶の彼方なんだろうなあ〜、と理解した部分もありますが、あの頃のトラウマをいまだに若干ながら引きずってる私に言わせると、彼らの”無邪気・無頓着さ”が、なんとも不気味でオカルトだわ、と思った出来事でした。皆がこういう”忘れっぽい無邪気な大人”になってしまうのだったら、多感な少女時代に自暴自棄になって無茶しなくて良かったわ、と逆に気が抜けたりしたものです。


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笑いあり感動あり、大好きな作品です。てんこ盛りの色彩美も見所ですが、なんといっても”スケバン”の土屋アンナちゃんが最高!フカキョンもこのロリータ役で見直しました。