夏が来れば思い出す〜♪
今から11年前、ドイツのウィンズバッハ少年合唱団が来日しました。御茶ノ水のカザルスホール(閉館)という中規模のホールで聴いた彼らの歌声は想像以上に魅力的で印象に残っています。
この少年合唱団は、ドイツの数ある少年合唱団の中でも、その一糸乱れぬ完成度の高さからナマの演奏を聴くまでは”カタブツ”な印象がありました。選曲も無難というか地味めで手堅い印象です。しかし、実際に聴いてみると、ソプラノが終始キラッキラと響きわたり、そのスキの無い完成された合唱に飽きるどころか、かなり心地良い気持ちになりました。
メジャー系の少年合唱団と違って客席も適度の緊張感を持って静まりかえり、コンサートとしては望ましい形でした。本当にこの合唱団は、鍛え上げられたテクニックで、宗教曲も民謡も抜群のハーモニーで酔わせてくれます。その手堅さこそ、ドイツ系少年合唱団の専売特許ですし。ただ上手いだけなら面白味がなくなりそうなものですが、どこかしら温かみもあって退屈にはならないところがなかなか好ましいのです。
ブレザーの制服姿の少年達は、キリリとした表情で子供っぽさはあまり感じらません。さすがゲルマン系、ちゃんと自分達の使命(笑)をご存知、という感じ。当時は、世界的(涙)流行なのか微妙にセミロングの黒髪を額から頬に流している少年が結構いて、これは「カッコイイ?!」とウットリするべきか否か随分悩みました。*1
【草津の国際音楽祭で】
さらにこの年('95)は、「実力派の少年合唱団をもっと聴きたい!」という思いと、無類の温泉好きも手伝って、草津の森音楽ホールまで足を運びました。'92年にアウグスブルク大聖堂聖歌隊を見に行って以来、2度目になりますが、この草津の森音楽ホールは私にとって大好きなコンサートホールの1つです。
丘を切り開いた斜面から、青葉茂れる高原にぽっかりと現れる木のホール。ロビーからは、日差しを受けた緑が眩しいくらい光輝いていて、爽やかな風がそよいできます。のどかな時間の流れと美しい自然、そしてそんな世間から隔絶された世界で異国の美しい歌声を浴びていられるのは、最高の贅沢です。この時のコンサートでは、残念ながら雨が降り始めてしまいましたが、それでも何故か清々しい思い出になっています。
コンサートがつつがなく終わった後、ホール前に止まってるバスに乗り込む合唱団員を見送っていると、悠々と指揮のカール・フリードリッヒ・ベリンガー氏がやって来ました。サインを求められて
「そうです、私が、スターなんです。」
と言わんばかりに(笑)丁寧に応対していました。
もう団員達はとっくにバスに乗り込んで、引率者を待ちわびていましたが、悠々自適のベリンガー先生は、我関せずに笑顔でサービス。窓からその光景を見つめる少年達は、「ああ、また始まった・・・ボク達いつ帰れるのかなあー。」という内心呆れた表情を浮かべていた気がします。
次の日、草津名物の湯畑へ仲間と繰り出しました。丁度、湯の溜まっている場所近くに自動販売機が連立しているのですが、そこに見慣れない外人集団がたむろっていました。「もしやこれは?!」と思ったら・・・ピンポーン!やはりウィンズバッハの少年達でした。
メンナー(青年)も居るので総勢40人くらいの大所帯ですが、前日とうってかわってラフなTシャツで日本の風景にハマリこんでると”男子高の修学旅行か?”と錯覚するほど。どこか親しみ深いのは、すこし野暮ったいドイツっ子だからでしょうね。面白がってちょっと様子を見ていると、販売機では主にコーラやサイダーなど無難な飲み物を買っていました。*2
【やっぱりスター、いや芸術家】
そしてふと目を向けるとそこにはスター・ベリンガー氏も当然いらっしゃいました。真剣な目で、足場の悪い岩の上に三脚を立て、ちょっとしたTVカメラマンが使うような大きめのハンディカメラから真剣にファインダーを覗いていました。あまりに真剣なので、またすっかり自分の世界を極めていらっしゃるよう(笑)。
せっかくの機会だから、と軽く声をかけて写真をお願いすると、険しい表情は一気に笑顔に変わりました。子飼いの部下?の少年に声をかけてカメラを預け、てきぱきと指示していきます。その少年の顔には「またビョーキが始まった・・・」と諦めにも似た表情が浮かび上がりました。とにかく上機嫌の先生のテンションと、淡々と与えられた仕事をこなす少年の対比が可笑しい。もしかして先生が一番子供?!
それにしても大人の指揮者の先生だから、(異国の地で)片時も子供から目を話さず、子供と一緒に・・・というのは幻想にすぎませんでした。ファインダーを覗いてる時のベリンガー氏の目の中には、”わが愛する生徒達”ではなく、”私の芸術”しか存在してないようで、教育者というより、根っから芸術家肌。あの卓抜なハーモニーの隠れ味はコレなのか。」と納得しつつも、あれ以来、思い出す度に笑いがこみ上げてきます。
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