BOY’S VOICE 新・永遠の少年たち

少年の声と少年文化に特化したブログです。

<悲劇の少年たち> ケンちゃん/宮脇康之

超人気子役の流転の日々

ケンちゃん

いつも気にかけていたわけではないのですが、ふとしたときに「彼はどうなったのかな?」と思い出していたのが、ケンちゃんシリーズで一世を風靡した宮脇康之さん。日本の高度経済成長・真っ只中、”あるべき幸せな家族”を絵に描いたようなホームドラマの中には、いつもケンちゃんの笑顔がありました。


己の少年時代を捧げたと思うほどにTVの住人だった、ケンちゃん*1。舌足らずの台詞廻し、愛嬌のある笑顔、ちょっと離れた目元、ふくれっ面をすれば「泣く子とケンちゃんには勝てない」というくらい我がままいっぱいでも憎めない男の子。当時、どれだけ多くの子供がこのケンちゃんの成長を見守っていたか。


リアルタイムでは、岡浩也*2のお兄ちゃんとして詰襟姿の学生服を着た、大人と子供の中間のようなケンちゃんが記憶に残っていますが、宮脇ケンちゃんも再放送で「へい、らっしゃい!」(すし屋のケンちゃん)なんて可愛い掛け声をかけていたのを覚えてるので、やはり同世代のような”近さ”を感じてしまいます。


青春ドラマ『ナッキーはつむじ風』を最後に私の記憶の中のケンちゃんは、姿を消しました。その後に見かけるのはもっぱら「あの人はいま」的な番組。その時、流れた映像でケンちゃんは、懐こい笑顔でグレーの作業服を着てプロパンガスの営業マンとして働いていてました。


まともな職業についていても長続きしない気がしたのは、ある共通項を感じたためです。子供時代に”超”がつく人気者だった人に多いのは、昔の華やかな時代を忘れられない・・・というパターン。普通の人生に飽き足らず、また芸能界に戻りたい、ともがくものの戻る場所はない、まるでピエロのような哀しさ。。。

【ブラウン管では日本一幸せな子役、実の家庭は崩壊】


ケンちゃんを忘れられなかったのは、その昔「朝日新聞」で連載記事を読んだからです。その小さな記事で、私は初めて自分が幼い頃楽しく見ていた子役の家庭は、幸せいっぱい、どころかボロボロだったことを知りました。ケンちゃんに付き添って朝から晩まで世話をする母親、日本一有名な息子を持った父親は教師業のかたわら、広報活動に精を出す。全く家族から忘れられた存在になった実の兄。


やがてケンちゃんが(後にあまり記憶がない、と語るほどの)多忙な芸能活動の裏側で、ジワジワと崩壊していく家族。父の浮気、両親の離婚、兄の自殺未遂、多額の借金に自宅も手放し・・・とまるでこっちがドラマ?のような悲劇です。何かが少しずつ狂い始めていくのを勘づきながらも、殺人的なスケジュールをこなすのに精一杯、の忙しい子役にはどうすることもできません。


ケンちゃん自身も今では想像も付かないほどの「大スター」扱いに正常な感覚を失っていく様が書かれていたのも怖かったです。数十万円*3のお小遣い、気に入らないスタッフをクビにする、ロケでホテルのVIPルームに宿泊など。もうここまでくると誰もが上を下に、の”お子役様”扱いです。

【ケンちゃんの過酷な人生】


『ケンちゃんの101回信じてよかった』という自伝には、子役時代から今に至るまでの詳細かつ赤裸々な内容が記されています。当時の”明るいケンちゃん”を大事にしたいなら読まないほうがいいかもしれないと思うほど、衝撃的でもあります。まさに愛・金・欲・人気に翻弄された人生そのものなのです。幸い、今の彼は家族も持ち、仕事でも成功しているようですがそうでもなければ浮かばれまい(笑)。


それにしてもある意味、ケンちゃんは強い。けちょんけちょんに踏まれて、山のような借金をかかえ、転職35回以上、いつ死んでもおかしくないくらいの激動の人生、「人間ってここまでできるんだぁ」とある意味感嘆するほどです。苦難の時に知る人の身勝手さや情の深さ、有名人の裏話など、白黒おり交ぜて盛り沢山。


いろいろ読んでいて結局、彼は本当にTVのままの「ケンちゃん」だったのかもしれないと思いました。「ケンちゃん」だったからこそ幸せも不幸も山のように味わって、またこれから死ぬまで「ケンちゃん」を背負っていかなければならないでしょう。けれども彼に後悔の言葉はないのです。「ケンちゃん」は彼の誇りでもあるから。その潔さには、心を打たれました。


蛇足ですが、この私、子供の頃、ナマのケンちゃんにも会ってました。彼が中学生の頃だったでしょうか、地元のデパートに”サイン会”に来ていました。ものすごい人だかりだったことと母が撮影したピンボケの写真をおぼろげに覚えています。サインはもらえなかったけど、本人談を読むと、大半が代筆だったようなので、まあいいか(笑)。


ケンちゃんの101回信じてよかった

ケンちゃんの101回信じてよかった

 想像以上に盛り沢山でした。

チャコねえちゃん DVDコレクション

チャコねえちゃん DVDコレクション

 ケンちゃんシリーズはまだDVD化されてないようです。こちらはケンちゃんシリーズ前のチャコちゃんシリーズ。弟役でデビューでした。

*1:役名なのですがこのブログの中でもこれで統一しています。

*2:後に二代目ケンちゃんとなります。

*3:時価にしたら、今の数百万円かも。