少年の哀しみを静かに描写
最近『アイ・アム・デビッド』(米 '03年)という映画を見ました。ひまわりだらけの景色に立つ少年のポスターがとても印象的で、前から気になっていたのです。
ちらっと小耳にしたあらすじでは、そんな牧歌的な風景とは正反対に強制収容所から脱走した少年が主人公、ということで「どんな映画なんだろう?」と思っていたのですが、やはり冒頭から厳しい収容所の世界が描かれていました。
驚いたのは、第二次世界大戦終了後の'50年代のブルガリアが舞台だということ。そんな時代にも東欧には、収容所があったんですね・・・。
政治犯として捕まえられた父、幼くして母と引き離された息子デビッドは、収容所で過酷な労働を強いられています。もはや母という存在ですら”寝室に現れて自分に優しい笑みを浮べる謎の女性”とおぼろげな記憶の彼方にあります。脱走に成功した後も、白昼夢のように辛い収容所生活と暴力的な監督官達の姿が蘇えり、怯えるデビッド。まだ子供でありながら生きることの虚しさを感じている彼に「外の世界の美しさ」を語り、脱走の手助けをする青年ヨハン。
同じシーンが何度も断片的にデビッド少年の回想シーンとして挟みこまれ、デンマークへと旅する彼に暗い影となってつきまといます。「人を信じるな」と収容所生活で教わったデビッドですが、旅を続けるうちに自然と人々の優しさに触れ、堅く閉ざされた殻を徐々に解放し、人間らしい微笑を浮かべることができるようになってきます。最後はスイスの老婦人に助けられ、運命の再会へ。思わぬハッピーエンドが嬉しい作品でした。
デビッド役のベン・ティバーは、ふっくらとしたおもちのような頬を持ち、つるつるの白い肌で血色も良く、とても収容所に居た少年とは思えません(笑)が、表情をあまり出さずに少年の恐れや哀しみを淡々と演じておりました。笑うことのできなくなった少年が老婦人に描かれた(凍りついた無表情の)自分の似顔絵を見て、「僕、こんな顔なの?」と聞くシーンがなんとも切なかったです。
少年性の喪失、『太陽の帝国』
この映画を見ながら、思い出した映画があります。上海で親とはぐれて日本軍の強制収容所に送り込まれた少年が主人公の『太陽の帝国』。クリスチャン・ベールの演じるジェイムズが戦争という狂気の中で死に物狂いで逞しく生き抜く物語です。日本軍に対してあまりに好意的すぎる、と当時はそれほど良い論評はなかった気がしますが、改めて見るとこの作品にもいろいろと感じるものがあります。
2つの映画を並べてみて感じたこと、それは少年時代にこんな過酷すぎる体験をし、親の顔すら思い出せなくなるくらい追い詰められたら絶対にトラウマになるのではないだろうか、ということ。その後の人生が幸せであればあるほど、むしろ平穏な時にもデビッドのように強烈に激しい記憶に心が揺さぶられるはずです。一生逃れられないような辛い思い出、その意味でどちらも少年性(子供時代)を喪失していく物語なのかもしれない、と思いました。
蛇足ですが、『太陽の帝国』でジェイムズが聖歌隊で歌う”SUO GAN”という曲。この映画のおかげでとても好きになって、イギリスの聖歌隊などが歌うたびに思い出します。吹替えで原曲を歌っているのは、ボーイソプラノのジェイムズ・レインバード(James Rainbird)。彼の名前もこの作品で記憶に焼きつきました。彼については、また別項でさらりと語りたいと思います。
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