親子の思いやる心に涙
カンヌ映画祭での審査員賞を受賞したこともありますが、是枝監督の新作映画であり、「子供取り違え事件」を元にしたストーリー、というのを聞いて、絶対に見るぞ!と心に決めていた映画です。是枝監督については、2作目の「ワンダフルライフ」に大感動して、「誰も知らない」でファンになった、というこの私。
「誰も知らない」もそうでしたが、家族映画を描かせたら現在日本で最高峰なのではないでしょうか。ドキュメンタリー出身だけあって、映像には派手さを選ばず、淡々とリアルな手法で描いています。それでいて、全編に監督の叙情的な持ち味が溶け込んでいます。監督の描き出す世界は、曖昧な”救い”などない過酷な状況であっても、登場人物への優しさや愛情が盛り込まれていて、見た後に癒しの効果があります。
我が子と信じて育ててきた6歳の息子が、赤ん坊の頃に取り違えられたと知った時、2組の夫婦はどうするのか。混乱や葛藤、怒りややるせなさ、後悔と絶望の中で、精一杯もがきながら歩んでゆく。もちろん辛いのは、親ばかりではありません。突然、「今日から俺たちが親だ」といきなり宣言され、気持ちの整理もつかないまま交換されてしまう幼い2人の子供達は必死に現実に耐えている。その切ない想い・・・。
ストーリーは、「そうなっていくだろうなあ」と予測がつく展開なので、あまり書くつもりはありません。ただラスト20分、嗚咽を必死にこらえてました。とにかく泣かせます。決してお涙頂戴の映画ではない(といっても泣かされるとは思ってますが)のですが、油断していたら、ぐわーっと持っていかれてしまいました。
この映画は、「誰も知らない」と同様、子供が重要な役割を担っています。子役に台本を渡さず、口伝えで台詞を言わせるという監督独特の演出法が光っていて、相変わらず子役の演技は自然体です。幼児2人なんて、全くの”素”だろう、と思ってしまうほど可愛らしい。取り違えの当事者である慶多と琉晴の好対照な性格も、ちゃんと描かれています。琉晴役の黄升ゲン君は、中国系なのかな。その辺にいそうな元気な子供というところが素晴らしかったです。
【何気に達者な役者が揃ってます】
超有名スターの福山雅治さんについては、演技がどう、というよりも、あまりにカッコ良すぎて(笑)リアリティが感じられないくらいでしたけど、子供に対して不器用な父親がピッタリな感じでした。リリー・フランキーさんは、まったくもってサスガです。”町の電気屋のおっちゃん”そのもの。昭和な佇まいにちょっと懐かしさを覚えました。
尾野真千子さん、真木よう子さんが演じる、2人の母親も良かったです。”お腹を痛めたわが子”となるとエキセントリックになりやすいところを抑えた感じで、より悲しみが伝わってきました。脇役陣もなかなか豪華で、主役級の人が何人も出ていました。中でも樹木希林さんの憎めないお婆ちゃん(尾野さんの母役)ぶりがもう最高!クスっと笑わせて、重い空気を何度も和らげてくれました。
是枝映画の特徴だと思うのですが、主人公がどれだけ理不尽な目にあっても、ただ誰かを一方的に責めるだけの映画にはなりません。そして、同時に観客も当事者の一人として引き込んでしまう吸引力が半端ない、そこが一番の魅力です。国内外の役者達に、「是枝監督の映画に出たい」と言わせてしまう、その存在に惚れ惚れ。ストーリーや演技の素敵さももちろんですが、結局、是枝作品に魅了されたくて見に行くのが大きいですね。
ちなみに「赤ちゃん取り違え事件」という素材は、'84年に「母と呼ばれて」という昼ドラマで放送されてよく見ていました。ビデオがない時代だったので、全話を見ることはできませんでしたが、小学生の男の子が全く違う家庭環境の家に引き取られていくところはよく似ていました。もう一度、見てみたいな〜。
ハリウッドリメークという威勢の良いニュースもありましたが、実現するかどうかは微妙です。この手の話は、大概はどこかに立ち消えになってしまうことが多いので。脚本不足のハリウッドがとりあえず、ホンだけは押さえておこう、という感覚だと思って期待していません。たとえ実現しても、空気感が全然違うエンタメ作品になってしまいそうですし。
もっと細かいディテールをじっくり楽しみたいので、DVDが出たら購入したいと思います。とにかくもう、ラストの素敵さにはヤラレます!親が子を思う心、子が親を思う心、それを感じて優しさを感じて下さい。
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