母と子のいたわり合う愛
およそ子供が買ってはいけないタイプの雑誌、と思っていた写真誌『写楽』*1。かなり悩み、本屋で幾分挙動不審になりながら(笑)勇気を振り絞り買ってしまいました。その雑誌では、1984年4月号、オノ・ヨーコと息子ショーン・レノンがキスをしている写真が表紙を飾っていました。
母子水入らずの日本旅行の特集。当時のショーンは12歳くらいでしょうか、黒髪にまん丸お目目が愛らしい美少年でした。
ジョン・レノンの衝撃的な銃殺事件から数年が経ち、ようやく落ち着きを持って当時のことを振り返ることができるようになった、と思われるヨーコ(敬称略)の語り口調で記事は書かれていました。この記事の中で語られるジョン・レノンは、どちらかというと「子煩悩で日本びいきの一外国人」という感じで、超有名スターを感じさせる記述はあまりありませんでした。
それまで私は、ジョン・レノン、もしくはビートルズは世界的大スターでありながら、その魅力をあまり理解してませんでした。彼らの曲は、好き嫌いを超えた一つの「世界的遺産」であり、もはやクラシックに近い存在。ビートルズは、英語の小冊子で題材に登場するような歴史的偉人達ですし、ヒット曲「レット・イット・ビー」は映画「悪霊島」のCMで脳裏に焼き付いてしまったり(汗)、と一ミュージシャンとして捉えることができない存在でした。
突然の非業の死に世界中が衝撃を受けて、大騒ぎになったことは覚えています。それでもなんとなく私にとってはどこか遠い存在でした。しかし、この記事を読んでからジョン・レノンという人がちょっとだけ身近に感じられるようになりました。妻の目から見た一人の夫としてのジョン、そして息子の目に映った優しいジョン、その情愛が全く知らなかった一人の男性としてのジョン・レノンを浮き上がらせてくれたのです。
【ショーンの想い】
さらに、もっと印象に残ったのは、息子ショーンを語るヨーコの率直な言葉の数々とじっと辛さに耐えながら、母親を支えようとするショーンの優しさ、です。子供があまり好きではなく、ショーンが生まれても距離を置いていた、と語るヨーコ*2が事件後、最愛の夫を思い出させるので「ショーンの顔を見るのも嫌だった」と語る母親の本音にはかなりドキリとさせられました。
ショーンは、事件の直後、ヨーコから父親の死を告げられて「うん、それはしょうがないじゃないの。・・・男はパパだけじゃないだからね。」と涙も見せずに語ったということです。もちろん、この言葉は母を悲しませないための精一杯の優しさから出ていて、彼は一人、自分の部屋で仲良しだったパパを思い泣いていたということです。
父が亡くなった後、距離のあった母と子は少しずつ近づいていき、「ともだち」から「パートナー」へと変わっていきました。レコーディングでもジョンがやっていたことをショーンが代わりにやってくれてる、と語るヨーコ。ああ、そんな形の愛もあるんだな、と不思議な感動におそわれました。親子だからって初めから愛情いっぱい、なんて無理をしなくてもどこかで繋がってる魂が呼び合う、そこからスタートすればいい。いつだって遅くなんかない、のです。
もう一つ印象的なエピソードがありました。TVの公開番組でリハーサルの時に司会者がショーンに「君は将来何になりたいの?」と聞き、彼は「歌うかもしれない」と答えたということです。それを聞いて「これは使える!」と(思ったらしい)司会者は本番でも同じ問いかけをしました。しかし、ショーンは「そんなのわかんないよ」と答えたそうです。
それについて息子の真意を察していたヨーコは、後からショーンに聞いたそうです。その時のショーンは、こんな言葉を口にしました。
「(司会者は)歌うって言わせたかったんだろうけど、ぼくが歌うなんて言ったら、もうみんながワーッと喜んで、それでぼくが歌うのをよしたら、もう泣いて泣いて涙でお池ができちゃって、ママとぼくが出口を探すのに泳がなくちゃならなくなるから・・・だからぼくは、知らんぷりしたんだ。」
(「写楽」より引用)
このエピソードは、ショーンという少年の聡明さと感受性の鋭さを感じさせ、20年以上経っても忘れられないものでした。そしてこの時、「ショーンももしかしたらいずれはミュージシャンになるかもしれないなあ。」とおぼろげに思ったものです。その後どんどん背が伸びて、ジョン・レノンを思わせる風貌になっていったショーン。やはりミュージシャンになり、地道な活動をしているようですね。
カリスマの両親を持ち、さらに若き日に最愛の父を失った少年の孤独と哀しみはとてつもなく大きかったことは想像に難くないです。しかし、それでも自分を見失わず、地に足をつけ、純粋さを失わずに人を思いやれる、そんな心根の優しい少年。旅館の一室、浴衣姿のショーンはまっすぐカメラを見つめ、無垢な表情を浮かべていました。悲劇を静かに見送った少年の静かで澄んだ瞳が心に深く焼きつきました。
限りなく辛い出来事であっても、それが時には人と人を強く結びつけ、愛を気付かせたり、身を寄せていたわり合うことができるかもしれない。そんな愛の姿を感じさせたヨーコ&ショーンでした。
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