BOY’S VOICE 新・永遠の少年たち

少年の声と少年文化に特化したブログです。

自閉症児のための教育(ボストン東スクール)

随分昔のことになりますが、読売新聞紙上でとても興味深い記事を見つけました。その記事には、白人の幼児が数名写った写真が一枚添えられていました。何の変哲もない写真のようでしたが、実はその子供達は自閉症だったのです。当時、知識もない私は、「自閉症」というと”自分の世界に閉じこもる心を病んだ子供のことかな?”と大いなる勘違いをしていました。


記事には、自閉症児達の症例が分かりやすく書かれていました。”自傷行為”と言ってわけもなく自分や他人を傷つける(自分の頭を何度も打ち付けて血だらけになる、近所の子供に噛み付く等)とか、自分の感情をコントロールできないことなど。親たちは愛する我が子でありながらもどうすることもできず、子供を家に軟禁状態にすることも多い、など痛ましい事例が紹介されていました。

【ボストン東スクールとは】


そしてそんな自閉症児のために日本の武蔵野東学園で生み出された”生活療法”が画期的な成果を挙げている、という話でした*1。それは、自閉症児を学園の施設に入所させ、24時間その世話を見るというまさに”生活”主体の教育のことだそうです。昼間は学校で”生きる力をつけさせる”ための基礎&情操教育、また音楽やスポーツをふんだんに盛り込み”子供の集中力と持久力を鍛える”教育も行われます。


一見、”理想的”と思える環境ですが、言うがやすし・・・で実際のところ教育者は熱意と根気の要る大変な仕事だと思います。しかし、その甲斐あって自閉症児に奇跡としか呼べないような成果をあげ、世界中から自閉症の子供達が集まってくるという思わぬ展開になっていったそうです。そして、アメリカはボストンにボストン東スクール*2が開校されることになりました。

【TVドキュメンタリー 「青い目のケイティ」】


しばらくの後、TVでこのボストン東スクールのドキュメンタリーを見ることができました。主役はケイティという11歳くらいの女の子で、シリーズとしては3,4回目くらいの頃でしょうか。彼女が4歳になってもオシメをつけたまま入学し、激しく奇声を上げたり自傷行為もあった過去のVTRが紹介され、その後、一目見ただけでは健常児と変わらないほど愛らしい少女に育った今のケイティにズームイン。


最初は、お揃いの白いTシャツに青い短パン姿を受ける子供達の姿。教室には、そこかしこに可愛い絵がいっぱい貼り付けられており、アルファベットの文字も踊ってます。1クラス6名ほどの少人数のクラスで、朝の挨拶は大きな声で歌いながら始まりました。見ているだけで楽しそうな笑顔。しかし、その中のある男子生徒は、この学校に転校してくる前の学校で、(暴れるため)1日中椅子に縛り付けられていた、という事実が衝撃的でした。


ところが担任となった米人女性教師があまり機転の利くタイプではなく、ある小さな事件が起こります。同級生の男の子が別の子に軽い暴力をふるった際に、原因をちゃんと突き詰めず、ウヤムヤしてしまったのです。「人が嫌がることをしてはいけません!」ということを心身に叩き込まれているケイティは、その顛末が許せない。


ケイティは、担任教師に反発してどんどん手がつけれらない状態になっていきます。自閉症児の特徴の一つに、周囲のちょっとした変化に対してとても過敏な反応をすることがある、ということも知りました。そういう意味では、健常児よりもずっと繊細でデリケート、コトの善悪をつけて納得させてあげないと途端に豹変する、ということもあるそうです。


やがて真相が判明し、暴力をふるった男の子は、被害にあった男の子に謝りに行きます。「ゴメンネ・・・仲良くしようね。」と言ってギュッと抱き合ってる様子をTVで見たときは、障害を持ってる筈のこの子達の方が、なんて素直で美しい魂を持っているのか、と大事なことを教わった気分でした。


結局、担任教師は退職し、新たに日本人女性教師がクラスを受け持ちました。ケイティとも相性が良かったようで、事細かに気を配って彼女の信頼を勝ち取る様子が写りました。


その他にも、学園祭で一輪車を乗りこなしたり、ジャズバンドを演奏する子供達の生き生きした様子も紹介されました。親も学校に何度も足を運び、子供達と触れ合う機会を作っています。教師と協力し合って、皆が責任を持って子供を育てている、という雰囲気に感銘を受けました。


その後、ケイティは中学に上がるに当たって一般の学校に転校することになりました。母親が誇らしげな表情で、「あの子はもう大丈夫」と娘のことを語る姿がとても印象に残っています。

【その後のボストン東スクールは?】


このボストン東スクールの授業料は、目が飛び出るほど高額のようです。但し、アメリカで”入学資格を有する”と認められた児童は、無料となるとか。それでも自腹をきってヨーロッパやアジアから子供を入学させる親も後を立たないそうです。裕福な家庭の子供であろうとは推察できますが、自国を離れて障害を持つ子供のために一家でアメリカ移住するというのは並大抵の覚悟ではないだろうな、と本当に凄い、と感嘆します。


その後、ボストン東スクールについての噂はパッタリ聞かなくなりました。アメリカのサイトで検索をかけたら、訴訟王国のアメリカで、児童の親に訴訟を起こされるなどトラブルもあったようです。きっとそういうことはこの学校に関わらず、少なからずあるのだとは思いますが、なかなか厳しい現実だな、と思います。


それでも、この学校では今も変わらず自閉症児が教育を受けてることでしょう。一人でも多くの子供が幸せになってくれたらいいなあ、と願ってしまいます。


◆2011.12.27追記:このドキュメンタリーを探している方がいらっしゃいます。サイトなどで見られる、という情報をお持ちの方は、ご一報下さるとありがたいです。

◇参考サイト
・武蔵野東学園のサイトから:ボストン東スクール

・ボストン東スクールの公式サイト(英語版):Home - Boston Higashi School 


ボストン・赤毛のアンの島・トロント日記10
   → 学校についての詳しいレポがあります。  

*1:数名の健常児も彼らと一緒に行動を共にするそうです。

*2:ボストンでは薬物療法による子供の死亡事故が起こったことがきっかけで、州を挙げて開校に支援をしたそうです。