タイムマシンがあったなら・・・
私がボーイソプラノに目覚めた'80年代前半は、思い返してもたまらない時期でした。少年のレベルを遥かに超える名ボーイソプラノが輩出された時期で、偶然とはいえ、これほどの充実はその後もなかなか訪れてくれません。
イギリスにアレッド・ジョーンズ、ウィーンにミヒャエル・クナップ*1、ドイツにはセバスチャン・ヘニッヒ、そしてアラン・ベルギウス(Allan Bergius)。
世界中のボーイソプラノのCDを昔では考えられないくらい手軽に(逸品はもちろん今でも手に入り難し)手に入れることが出来ても、やはり”衝撃的”と思えるほど脳髄に突き刺さる歌声にはなかなか出会えず、原点回帰になってしまいます。過去への発掘作業(笑)の方が、優れたものが聴けるのでこれは仕方がないことかもしれません。
現代でも卓越したボーイソプラノ・ソリストを輩出しているテルツ少年合唱団においても、私には相変わらずアラン君を超えるソリストが居りません。技術的には彼に匹敵するソリストは何人も出ていると思います。但し、アラン君の持つ凛とした高潔なソプラノ、どれほどの超絶テクニックを繰り広げても失くすことはない少年らしい伸びやかで優しい高音、そして他の誰にも勝る武器は「少年の色気」→これは私の趣味では欠かすことができないキーワードですね(笑)。
【映像で見る天才ぶり】
映像で残る歌劇『モーツァルト/アポロとヒュアキントス』*2では、ヒロイン・メイア役をアラン君が演じています。お城の中にオーケストラを入れ、ロココの扮装に身を包んだテルツ少年合唱団の少年ソリスト達も麗しい。アポロへの恋心を歌うアリアは、少女にしか見えないオデコ美人のアラン君の容姿と空前絶後の歌声の素晴らしさに、アポロどころか私が恋に堕ちました(笑)。
恋の喜びから一転、兄ヒュアキントスをアポロに殺されたと思い込んで、アポロを激しく嫌悪し、拒絶するメリア。「お行きなさい!なんて恐ろしい方・・・♪」と激しく歌いあげる時の厳しく気高い乙女の表情、そして荒々しい言葉であっても、一音一音丁寧に、かつ情熱的に歌い上げるアラン君に溜息。。。いかなる時もきっちり指揮者を確認して歌いこんでました。
★圧巻!メリア独唱 → Tölzer Knabenchor: Air of Melia from Apollo et Hyacinthus - YouTube
アラン君は、オペラ出演が多忙を極め、学校の出席日数が少な過ぎることなどもあって、変声前にテルツ少年合唱団を退団したそうです。もちろんその後もソリストとして個人活動を続け、変声する前にソロコンサートや自主制作盤を発表しました。いろいろな経緯があって3枚の録音は手元にありますが、メジャー盤、せめてCDで発売されたらどれだけ素晴らしかったでしょう。
【幻の自主制作盤】
第1弾はバッハとモーツァルトの宗教曲(LIVE盤)。”Exsultate,jubilate”は、歌の実力があるソリストがよく取り上げる題材。明るめの歌声はモーツァルトに良く似合います。しかし、この録音でマイ・ベストは、歌劇『魔笛』の”夜の女王のアリア”。高音のコロラトゥーラを用い、難曲中の難曲で女性ソプラノ歌手でも決して楽には歌えない曲。
技巧のあるボーイソプラノでも、この曲にチャレンジするのは第一級、と勝手に思ってます。ボーイソプラノの録音でこの曲を聴いたのは過去に5人くらいでしょうか。もちろんウィーン少年合唱団のあの(笑)マックス.E.C君も歌ってます。当然のことながら、私はアラン君の”夜の女王のアリア”が一番お好みです。
第2弾の「シューマン/詩人の恋」は、変声が近くなったかやや高音に翳りが感じられます。ピアノ伴奏でゆったりめのペース、無理な高音も少なく、初めて聴いた時はあまり好きになれませんでした。少しずつ失われていく輝かしい美声への哀愁が高まり、切なくなって。
第3弾もLIVE録音。'85.9頃の録音のようです。モーツァルト、バッハ、モンティベルディ、ヘンデルなどから渋い(?)選曲してます。この頃のアラン君は、少年期の幼さがだいぶ消えて安定感もあり、高音が際立ってつややかに響いています。歌声は大人っぽくなっていますが、相変わらず彼の紡ぎ出す音色には静かな哀調があり、魂に奥深く語らいかけ・・・グッときます(笑)。そう彼の声にはどこか男でも女でもない、性を超越したパワーが宿っていたためかもしれません、いつ聴いてもどこか深い世界に引き込む魔力があります。
そんなアラン君は、今は自分の幼い頃から憧れていた指揮者の道を歩んでいるようですね。チェロ奏者としても、'93年にテルツ少年合唱団のオペレッタ『アポロとヒュアキントス』上演に一緒に来日してオーケストラボックスで演奏していました。出の時に、レコードへサインをいただきましたが、メガネをかけた物静かで落ち着いた青年に成長しておりました。いつの日か、また涼やかな瞳を持ったその姿で、指揮台に上がる彼を見る日が来るかもしれません。そんな日が来ても私は往生際が悪く(笑)、
歌うアモール、少年アランの美声にまだまだ酔いたい!
★クリスマス・オラトリオソロ → Allan Bergius Füchtet euch nicht - YouTube
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