BOY’S VOICE 新・永遠の少年たち

少年の声と少年文化に特化したブログです。

来日ソリスト列伝 マックス・E・チェンチッチ

天才ソリスト 現在もオペラ歌手として活躍

マックス・E・チェンチッチ

ウィーン少年合唱団の長い歴史の中でも、近年稀にみる大活躍をしたソリストは、マックス・エマニュエル・チェンチッチMAX EMANUEL CENCIC)だと思います。


長らくソリストを特別扱いしない、という方針を貫き、どれほどの名歌唱であってもソリスト名をアルバムに掲載しなかった合唱団が方針を転換してまでマックスの名を表記したとき*1、本当に驚いたものです。


それもそのはず、このマックス。ウィーン少年合唱団のみならず、私がこれまで見に行った生のコンサートで彼を上回る”テクニック”の持ち主にはいまだに出会ってません。幼い頃から、声楽家の母の元、英才教育を受けたと思われるマックスは、クロアチアザグレブ出身。地元では「神童」と呼ばれ、すでに名声を得ていたところを、ウィーン少年合唱団のスカウト(らしい?)にて越境入学したということで、入団当初から「技術的なことで彼に教えることはもうない」というほどに、声はかなり出来上がっていたと推察します。


1987年よりウィーン少年合唱団に在籍し、1989年日本で来日公演。来日中は、各地で少年合唱団ファンに衝撃を与えまくり(笑)、戻ってからもレコーディングやコンサートで華々しい活躍ぶりをしていました。私がマックスを知ったのは、当時の文通相手が合唱団来日メンバーのペンパルで、その団員自身が

 「マックスはすごい!」

と手紙に書いてた、という話がきっかけです。一緒にレッスンを受けてる団員自身の素直な感想に、「これはすごいことになりそう」という予感がしていました。


実際、来日したマックスは他を寄せ付けないほどズバ抜けたソリストぶりでした。弱冠12歳でウィーン少年合唱団のトップソリストを勤めるというのに、すでに完成されて全く危なげのない歌いっぷり。「一人だけプロが混じってるのでは?」と思うほどでした。この年の来日メンバーは、ハーモニーの美しさも空前絶後でしたが(マイベスト)、他にも魅力的なソリストが何人もいて、私は、その中でも絶世の”美少女”*2ベンノ・ヒュットラー(BENNO HUTTLER)の可憐なソプラノ声がものすごく気に入っていました。


幸いベンノの素朴で優しい歌声も存分に聴けましたが、なんと言ってもメイン・ディッシュは、マックスです。宗教曲でのソロは当然のこと、オペレッタではほとんど「あんたがスター」状態(笑)、受け持つソロは完璧な出来で、アンコールでウィンナ・ワルツ「春の声」を丸1曲ソロで歌うという離れ業までやってました。そう、彼は来日中からすでに”伝説の名ソリスト”でした。コロラトゥーラも難なく、ワルツ5分を乱れなく歌いまくる少年なんて誰が想像するでしょうか!?今でもこの曲を歌った時、マックスのセーラー服の下の横隔膜の激しい動き(笑)が目に焼きついてます。


ただ彼について一番感心したのは、合唱の中での自分のポジションをちゃんとわきまえている、というところでした。合唱で歌うときは、声量を抑えて美しいハーモニーを崩すことがありません。このあたり、指揮者のペーター・マルシーク氏の指導が行き渡っていたのでしょうが、マックス自身がとても賢い少年であることを実感しました。比較的素朴で清らかな声質の少年が多かった来日メンバーの中で、どうみても異質な鋭角的なソプラノのマックスの声は目立ちそうなのですが、すっかり溶け込んでいたのです。

【その後のマックスあれこれ】


マックスには、来日中も日本でソロコンサートを開くために日本のファンに支援を呼びかけて準備をしていた*3、という凄い逸話が残ってます。何事も破格だったマックスは、'92年に退団するまでウィーン少年合唱団内でも特別待遇のごとく、ソロ集も発売され、数々の大曲のソリストに選ばれて、天下無敵の活躍ぶりでした。どこを見回してもマックスだらけ(汗)だった時期もありましたが、CDはだいぶ廃盤になっているようですね。


'92年再来日のコンサートでもソプラニスト(男性ソプラノ歌手)という珍しい歌唱形態でコンサートを開いており、私も足を運びました。プライベート盤CDも数枚販売されてました。変声期後も訓練でボーイソプラノと同じ声域で歌うことが出来た、ということですが、ますます女声的な声質に*4になっていました。その後、声への負担が大きかったのか、一時声が出なくなり、カウンターテナーへと転身して今日も歌い続けているそうです。


'80年代終盤から'90年代初頭にかけて沢山も録画に録音でマックスにお目にかかりましたが、彼の声は私には”女声ソプラノ”を思わせて実はちょっと苦手でした。しかも、あまりに飛び抜けていたために、この時期のウィーン少年合唱団の主だったアルバムのソロは”またかのマックス”で、他のソリストが埋もれてしまったと思うと、ちょっと惜しい気持ちもあります。


ただ、彼のような文字通り優れたソリストの活躍をナマで見ることができたのは、一生涯、良き思い出にはなるかも、などと思ってます。


◆マックス・E・チェンチッチ公式HP:Max Emanuel Cencic - Countertenor - Max Emanuel Cencic - Countertenor
 日本語のページはこちら:Max Emanuel Cencic
 参考にさせていただきました。ボーイ・ソプラノ時代のCDやビデオも通販してます。


オトコの唄に男が惚れて マックス・エマヌエル・ツェンチッチ: 「おかか1968」ダイアリー~いっそブルレスケ~
 現在のマックスを紹介しているクラシックブログです。男声としては高いのだと思いますが、それでも「低くなったなあ」と感じました(笑)。それにしても不思議なビジュアルですね。


Vienna Boy's Choir : Exsultate, Jubilate

Vienna Boy's Choir : Exsultate, Jubilate

ほとんどマックスのソロ集です。


Mozart - Waisenhaus Mass (Harrer, Vienna Boys' Choir) (2005) [DVD] [Import]

Mozart - Waisenhaus Mass (Harrer, Vienna Boys' Choir) (2005) [DVD] [Import]

モーツァルト/孤児院ミサ。再発売です。


D. スカルラッティ:愛のカンタータ集

D. スカルラッティ:愛のカンタータ集

最近のMAXのCDを見かけました。怖くて手を出せません(汗)。


天上の声-ファリネッリの伝説[DVD]

天上の声-ファリネッリの伝説[DVD]

カストラートのドキュメンタリというより、現役カウンターテナーの名演やインタビュー集です。日本語字幕がないのが残念。マックスもかなり比重が高いです。

*1:これ以後、ソリスト名を記すのが普通になってます。

*2:もちろん、オペレッタで女装した姿です。

*3:実際に3年後に再来日してコンサートを実現させています。

*4:話す時の声は子供の頃から低めでした。