初来日の興奮
コナー・バロウズのCDリリースから遅れること2年、待望の来日コンサートが開催されました。それは、1999年8月30日東京オペラシティホールのことでした。その日の会場は、不思議な熱気に包まれていたような気がします。
見かけるのは年季の入った(笑)全国各地の少年合唱ファンと思われる人達。私の知り合い達も最果ての九州から駆けつけていました。かくいう私もボーイソプラノのユニットのコンサートは、初体験。どんなコンサートが開かれるのやら・・・と興味深々でした。反面、CDのクオリティ通り、少人数編成の少年達であの広いコンサート会場が満たせるのだろうか?という不安もないわけではありませんでした。
すでにステージ上には、椅子がいくつか用意されて楽器が置かれています。シンセなどちょっと現代的なサウンドも伴奏に付いての公演なのだ、と分かるとそれもまた新鮮な気分に浸れそうな予感。客席寄りの縁にはスタンドマイクも立っていました。開演の合図があり、思い思いの白のブラウスを着込んだ少年達が袖から歌いながら入ってきた瞬間、そのドキドキは驚きに変わりました。
少年達はとても落ち着いていてイギリス系といって連想する繊細すぎる(笑)歌声とはまるきり違って、声量もあり、たった7人だけの少年とは思えないのです。まるで美しい声に吸い込まれるようなふわふわとした不思議な感覚を味わいました。背の高い指揮者は、すっかり青年の仲間入りをしたコナーです。TV出演で見せた少年っぽさは目元にのみ残し、キリリと凛々しい若き音楽家に変貌してました。
【 アンドリューの奇跡の歌声 】
曲は、2ndCD『ブルーバード』で馴染みのものばかりでしたが、この日の公演で忘れられない声と出会いました。変声期に差し掛かり始めて高音がきつくなっていたエドワード・バロウズと代わる代わるソロをとっていた、ボーイソプラノ絶頂期のアンドリュー・ジョンソン(Andrew Johnson)の歌声です。彼の「アレグリ/ミゼレーレ」が、あまりにも素晴らしくて一瞬のうちに心が奪われてしまったのです。
もともと、ケンブリッジ・キングスカレッジ聖歌隊を始めとして少年合唱団系のアルバムにもよく収録されていたこの曲は、宗教曲の中でも”至宝の美”を誇る名曲中の名曲。その素晴らしさには、今でも聞く度に感動に襲われます。私自身、いつまでも愛してやまない曲なのです。
その一方で、儚く、美しいボーイソプラノの究極の美の瞬間を、最高音域の連続で体現させる難曲でもあります。まっすぐ揺らぎ無く高音を持続させるのは、決して簡単なことではないでしょう。もちろんテクニックは必要でしょうが、過剰な思い入れはむしろ邪魔になるようなこの我儘な曲を、アンドリューはしっかりとした安定感で難なく歌いきっていました。
全く音程の危なさがないのは、彼が”絶対音感”の持ち主だからかもしれないな、と勝手な解釈をするほどに。ピュアで比較的、無機質な歌声でありながら、一音一音がまるで一つの生き物のように魂を持って伝わってきました。
後日、NHKの『スタジオパーク』に出演した時の映像*1を見せてもらったのですが、この時にも(大変贅沢なことに)アンドリューは「ミゼレーレ」のソロを取りました。やはり表情には揺らぎがなく、かといって自信満々という風でもなく、全くもって平常心の表情。そんなに素っ気無い顔でよくあんな高音を出せるなあ(笑)と溜息がでました。
翌年に2度目の来日公演が開かれた時は、すでにステージの上にエドワードの姿はなく、アンドリューがメイン・ソリストを務めていました。すでにこの美しい声も変声の日が近いことは、大好きなCD『ボーイズ・オン・バッハ』でのやや太さを増した声と、時折苦しそうな表情を浮べたこの日のコンサートで実感しました。
バロウズ家3男坊のパトリック・バロウズ(Patrick Burrowes)もアンドリューと同様、2回来日してます。’コナー兄’似の硬質の歌声は、非常に魅力的でしたが何故か2度目の来日の時はアンドリューにばかり目が行ってしまい、記憶が薄いのが残念です。しかし、5人兄弟のうち最初の3人が全て並外れたボーイソプラノ・ソリストってすごい家系ですねえ。しかも揃って美少年・・・というのがまた美味しい。バロウズ家の遺伝子は最強です(笑)。
(まだ終わらなかったか・・・パート4へ)
- アーティスト: ボーイズ・エアー・クワイア,バッハ
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2000/10/21
- メディア: CD
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
*1:コナーが180cmはあると思うほど大きいのにまだ16歳だったのにも驚きました(汗)。