BOY’S VOICE 新・永遠の少年たち

少年の声と少年文化に特化したブログです。

圧巻、ブラボーな2013年テルツ少年合唱団日本公演

sugiee2013-08-14
今月の8日に杉並公会堂、9日みなとみらいホールで公演のあった、テルツ少年合唱団公演に行ってきました。実は今回、休みをとるのがかなり困難を極め、胃の痛くなる毎日でしたが、どうにかやっと・・・間に合いました。それだけに格別な思いでコンサート会場に足を踏み入れました。


テルツ少年合唱団は、1986年の初来日*1以降、'90年、2000年と4度目の来日となります。'93年に少年ソリストのみでオペラ『アポロとヒュアキントス』の演奏という”夢のような出来事”もありましたが、現在では国内の招聘先がなかなか見つからず、待ち望んだ13年ぶりの来日も実現がかなり大変だったそうです。


10年に一度、そして次回はあるのか?という一抹の不安を感じながらも、少年達の圧巻のステージにそんな思いは吹き飛んでおりました。2日間のライブで3曲ずつ公開された「バッハ/モテット」の素晴らしさは筆舌に尽くしがたいほど。沢山の少年ソリスト達がかわるがわるソロを歌い、大迫力のコーラスにも、めくるめくる瞬間に酔いしれておりました。


モテット全曲を生で少年合唱で聴けるのは、まったりと長い(笑)ファン人生でも初めてのことだった気がします。"Komm,Jesu,komm"(BWV 229)での3度も繰り返されるソロ掛け合いはとても新鮮に目に映りました。また、CDでは冒頭に歌われるが、テルツはプログラムの最後に歌われるという*2"Singet dem Herrn ein neues Lied"(BWV225)も、素晴らしかった。


あの素晴らしさをどうやったら文字におこせるのか、書きながらあまりにも無力感を感じてしまうのですけど、魂から湧き上がる音楽を楽しむ贅沢な時間でした。シューベルトの「詩編23篇」は、イントロを聴くだけで懐かしさが充満してました。その昔、ウィーン少年合唱団で数えきれないほど聴いた思い出の曲です。とてもナイーブな曲ですが、少年達は磨き抜かれたハーモニーを余すところなく見せてくれていました。


齢80歳となられたゲルハルト・シュミット−ガーデン先生は、残念ながらご病気で来日叶わず、今回は指揮をラルフ・ルーデヴィック氏が勤められました。非常に情熱的でメリハリの利いた合唱を作り出しており、歌の間でも少年達にかなり沢山のアドバイスをしていました。笑顔も茶目っ気があり、「ラテン系」っぽい素朴な先生という感じで、歌い終えたソリストの少年達に握手をする姿も印象的でした。

【カンマーコーアのソリスト達】


最も見ごたえ聴きごたえがあったのは、「モーツァルト魔笛より三童子」と「メンデルスゾーン/Hear My Prayer」というボーイソプラノには定番の曲達です。中でも最も印象的だったのは、本来は女性ソプラノであるパミーナを歌った、ヤコブ・ゲプフェルト(Jakob Goepfert)君。金髪のストレートヘアでそばかす顔の特徴的な顔立ちで、少しエキセントリック系のビンビン響くソプラノボイス。



豊かな声量のため、かなりソロでは多用されておりましたが、若干ブレスと高音部のコントロールが甘いのが残念。実は、来日直前にトップソリストが変声してしまったらしく、ヤコブ君はこれから伸び盛りのソリストという感じがしました。一方で魔笛2曲目の三童子側のソプラノソリストもかなり色気のある上質なソプラノで、印象に残りました。


「Hear My Prayer」では、変則的に3人のソリストが歌い繋ぐという形でした。これもソリストの宝庫であるテルツならでは、かも。ヤコブ君がトップバッターでしたが、この曲には彼の声はちょっと合わない感じで、次の2人のソプラノソリストの方が安定した高音で、心安らかに聴けました。全体的にメゾやアルトのソリスト達もレベルが高いので、すごく贅沢なひとときを堪能できました。


まあもともとテルツ少年合唱団の場合、どの少年でもソリストを務められますよ、という「ソリストの見本市」状態なのですが、何十年もその状態を維持していくのはそんなにたやすいことではないと思います。10年というスパンで見ていても、「さすがはテルツ」といつも変わらぬ感動を与えてくれるのはありがたい、まさにファン冥利につきる奇跡の一瞬だなあ、と思ったり。


テルツの元気いっぱいのドイツ民謡も楽しかったです。お馴染みの赤と白のチェックの民族衣装(チロリアン風)に着替えて、これでもかと歌い上げてくれて、ボルテージ上がります。昔からテルツの民謡集を愛聴してきたので、お堅い宗教曲とはまた違った盛り上がりがあります。

【新しいファンがなかなか増えない?】


日本が長い不景気に陥った2000年頃から、少年合唱団の来日はどんどん減っているようです。何よりスポンサーが減り、招聘先が見つからないという金銭的な問題が一番大きいのでしょうが、その他にも50年代のウィーン少年合唱団全盛期から受け継がれていった、”多感な少女達が欧米の少年合唱に憧れる文化”そのものが壊滅的な状態に陥ってしまったことがありそうです。


公演やテレビ放映も減って、CD発売もジリ貧、情報量も低下する一方。マニアは現地へ飛んで自分の嗜好を満足させ、肝心の合唱団は、目覚ましい進化をとげるアジアの振興国へと呼ばれていく。悪循環が悪循環を呼んでいるようです。時代の趨勢とはいえ、寂しい限りです。


それでも今回、テルツ少年合唱団が現地から持ってきてくれた貴重な輸入盤CDは、10種類くらいあり飛ぶように売れておりました。売り場は、ちょっと見たことがないくらい賑わっていて、ファンがどれだけ待ち望んでいたか実感できたほど。なんでも初めに訪れた鹿児島の公演の時点で売り切れ続出で、慌てて発注をかけ空輸して間に合わせたそうです。


みなとみらいホールでは公演終了後、沢山のファンの被写体になった少年達。女性達に紛れて、なぜか青年やオジサン達も結構見られました。意外なところで、クラシックファンの裾野は広がってるのかな?と思ったり。私事となりますが、テルツの公演を機に長年会えないでいた元合唱ファンと7〜10年ぶりに再会できたのも嬉しい体験でした。まさにテルツの素晴らしい合唱が引き合わせてくれた、という感じです。


私もいつか買い集めた少年合唱CDをサカナに、自宅に「少年合唱の部屋」でも作ろうかな、なんてささやかな野望を抱きました。世の中がどんなに変わっても、頑なに変わることのないもの、それを見つけられたのは幸いなことだと思います。


テルツの少年達は、鹿児島の旅館でお茶の時間を楽しみ、12日に猛暑の東京から中国へと旅立ったそうです。日本で良い思い出を沢山作って、いつかまた日本に再来日して欲しいものです。

2013年テルツ少年合唱団来日公演
◆たらさわみちさんのサイト:練習風景や来日パンフレットなどが紹介されております。


boysvoice-2.hatenablog.com
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*1:最近もこの時のライブ盤がCD化され発売されています。

*2:筋金入りのテルツファンMさんの解説にて