BOY’S VOICE 新・永遠の少年たち

少年の声と少年文化に特化したブログです。

『独立少年合唱団』特集(1)

日本版「コーラス」 一瞬の少年美と奇跡

私ごとですが、数ヶ月前からこのブログで記念すべき200回目の記事の題材は、「これしかない!」と思っていたのが『独立少年合唱団』という映画でした。これを書きたくて書きたくて・・・でもいざとなったらきっとうまくまとめられないだろうと思ってしまっていた作品です。


この映画を知ったのは、2000年のベルリン映画祭で「アルフレートバウアー賞」*1を受賞した、と報道があったすぐ後のことです。タイトルと二人の少年のショットが写った記事に一瞬にして心を奪われました。これは見逃すわけにはいかない!と。


そして、映画館で予告編を見てその期待は、確信に変わります。公開規模は決して大きくなく、場所も決して便利とは言えない台場のシネマメディアージュシネコン)。そこに5回も通うことになりました。


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私を魅了したこの映画の素晴らしさは、練られたシナリオというより、映画の中に確かに息づく'70年代の少年達の姿とハーモニーです。当然オーデションで選ばれた現代の少年達が演じているのですが、それはもはや演じている、というレベルを通り越して、確かにその当時の濃密な空気の中にしっかり存在していました。


この映画は残念ながら、まだDVDにはなっていません。海外では『BOY'S CHOIR』*2というタイトルでDVD化されているのに、肝心の日本で復刻されないのが残念でなりません。一部では根強い人気があると思われる作品なので、これまた諦めずに待ち続けたいと思います。


あらすじ:父の死によって全寮制の男子中学「独立学院」に転校することになった道夫。吃音症で苛められる道夫は、そこで出会ったボーイソプラノの美少年、康夫に勧められ、一緒に合唱団で歌い始める。康夫はウィーン少年合唱団に憧れる少年だった。合唱指導の清野には過去、学生運動に手を染めた経験があり、彼を頼って逃げてきた後輩の女性の存在が、多感な康夫と道夫に見えない暗い影を落とす。そして声変わりを境に、静かに狂いだす康夫のナイーブな感性は、破滅的な結末へと向かい始める・・・。


この映画の主人公の一人である康夫は、少女のような儚げな美しさをもつ藤間宇宙君が演じました。撮影当初は、実際に変声前だった彼が映画と歩調を合わせるように変声期を向かえ、やがて顔立ちも精悍さを増していきます。


素朴で味のある顔立ちの道夫役の伊藤淳史君との友情は、海外では一部”同性愛”と受け取られたりしていたそうですが(汗)、緒方監督自身も数年後、映画を振り返ってからそんなムードを感じたようです。


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一方、この作品の中で光を放っているのが少年達の荒削りだけれども素敵なハーモニーです。選ばれた少年達自身が訓練によって合唱団を作り上げていったので、彼らの努力や思いがちゃんと映画に焼きついて映画に魂を与えているようでした。男声合唱の中で、康夫の美しいボーイソプラノ*3のソロが響く時は鳥肌が立つほどの感動に襲われました。


ロシア民謡*4の「ともしび」「ステンカ・ラージン」という曲は、この映画で初めて聴きましたがその素朴だけれども力強い響きに魅力を感じましたし、女子中学生との混声合唱大地讃頌」は、自分の学生時代を思い出してとても郷愁をそそりました。


最大の見せ場はなんといっても「ポーリュシカ・ポーレ」。合唱コンクールという晴れ舞台(実は隠された意味のあるシーン)で歌われるのですが、学生服に身を包んだ少年達のキリリとした表情とその一瞬のきらめきにノックアウト!


「目を閉じて・・・歌は沈黙から始まります。」という素敵な言葉を語る清野先生(香川照之)は、映画の表舞台のみならず、裏側でも少年達をちゃんと指導していたそうですが、彼自身も全く弾けなかったピアノを映画のために習得した、と聞いてその並々ならぬ熱意に感動を覚えました。


この映画には、宇宙君以外あまり美少年と呼べる少年は出演していないのですが、詰襟学生服を着こんだ、ボサボサな黒髪('70年代特有のロン毛)の下のニキビ面の少年達のなんと麗しいこと!忘れかけていた”日本男児”の魅力に目覚めましたね(笑)。


そしてとても印象的なシーンは、池のシーン。危険区域の池で溺れかけた一人の少年が意識を失いそうになる直前に亡き両親の姿を見た、と語ったことから、同級生達が一斉に池へと駆け出します。台詞のない静かなシーンなのですが、少年達の表情に”親の愛に飢えた、少年期の孤独”を見出してドキっとしました。


恐らく狙って撮影していない部分にこそ、この映画の本当の”価値ある美”が顔を覗かせているのだと思います。


次回は、「独立少年合唱団」のメイキングとトークショーに呼ばれた香川さん&宇宙君の談話から印象的な部分を書きたいと思います。


独立少年合唱団

独立少年合唱団

  • アーティスト:サントラ
  • カルチュア・パブリッシャーズ
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サントラCDです。なかなか印象的なサウンドでした。

原作本です。この本でラストシーンの意味を確かめました。


boysvoice-2.hatenablog.com

*1:新人監督賞

*2:そのまんまなタイトルが可笑しい。

*3:実際は、横田裕一さんというカウンターテナーの吹替です。

*4:学生運動に手を染めた清野先生だから曲がロシアのものばかり、なのかもしれませんね。