BOY’S VOICE 新・永遠の少年たち

少年の声と少年文化に特化したブログです。

来日ソリスト列伝 ミヒャエル・クナップ

1980年来日ウィーン少年合唱団 伝説のボーイソプラノ

パート1・2から随分と間が空いてしまいましたが、ようやく続編を書こうと思います。友人でミヒャエル・クナップファンのYちゃんから素晴らしい情報をいただいたので一気に気持ちが高まりました(笑)。


「青きドナウ」でも書いたAlmost Angelという少年合唱サイトに、ミヒャエル・クナップ(Michael Knapp)のソロの歌声と貴重な映像がUPされていたためです。見た瞬間、震えが走るほどの感動がありました。


ミヒャエル・クナップは、'80年代のウィーン少年合唱団来日組の中でも”伝説のソリスト”と賞賛されるボーイソプラノでした。'89年の超技巧派マックス・E・チェンチッチもまた評判のソリストではありましたが、圧倒的に録音を残したマックスと比べて、クナップが歌っている、と認識できる録音はほとんど無く、とても残念で仕方がないソリストです。*1


映像で唯一、歌う姿を見られるのは'70年代終わりに録画されたと思われる、ビデオ/LD『聖しこの夜』のみです。弦楽団と代わる代わるでウィーン少年合唱団の歌声が納められているこのビデオ映像は、シックな映像の美しさと合唱の素晴らしさが堪能できる作品で、是非復刻して欲しいものです。


クナップは途中、輝くばかりの笑顔でドアップで映るのですが、歌声が歌ってる少年達のものかどうかは不明ですし、ソプラノソロを歌う少年のアップがないため(涙)クナップの声を判別することはできません。それにしても溜息がでるほど魅力的な歌声でした。
他に録音盤の情報があれば是非ご一報下さい!

【優等生?なのに色っぽいソプラノ】


クナップの歌声を始めて聴いたのは、'80年来日公演のステージではなく、その後何年か経ってから、当時録画中継された来日公演のTV番組のビデオテープをもらった時です。だいぶ劣化したその映像からでもクナップの凄さは一瞬で分かりました。


厚底メガネにちょっぴり眠そうなタレ目がトレードマーク、表情もさして変わらず、ヘルベックの「子どもらようたえ」のソロをとても淡々と優等生的に歌い上げる黒髪の少年から繰り出す驚異的なハイソプラノにまさに仰天!!


実はこのクナップ、学業に専念するために一度合唱団を離れていた、という噂を聴きました。'80年の来日パンフレットを見ても団員の紹介ページに彼の写真がなく、別紙で挟みこまれていた、という急遽来日のソリストだったのです。元々の来日コーア(組)のソリストが変声に入ったためかもしれませんが、そのおかげで稀代の名ボーイソプラノが日本でその勇姿を見せてくれたのですから、偶然とはいえ感謝したい気分です。


オペレッタ『おしゃまなプリマ』を見るとクナップのまたとてつもない魅力を一層感じることができます。アントニアというオペラのプリマドンナ役で文字通り難曲ソロばかりをすらすらと歌いこなすクナップ。


そして、視力の悪さからくると思われるのですが*2その潤んだ瞳と焦点が合ってない(笑)眼差しがまさに’恋に悩む乙女’役にピッタリ、悩殺ものの色気を感じさせました。銀髪カツラを被り、ピンクのドレスを着て歌うクナップはどこから見ても麗しの乙女、そのものでした。


そして落ち目の老プリマドンナ、マルツェリーナ役のイエルク・クルシッツ君と火花が飛び散るほどの”女の闘い”を繰り広げる時のプライド高い貴婦人ぶりはゾクゾクするほどの素晴らしさ。屈指の名場面でした。


この'80年組は特に演技派が揃っていて、単なる偶然なのかそれとも当時は演技指導の先生がいたのではないかと思うほど、少年達の演技力は並外れております。小さな団員達も特に少女役を演じている少年達ほど、女になりきって生き生きと演じまくります。


'90年代以降の公演でオペレッタを演じていた団員達の、いかにも’学芸会’レベルの演技力(表情もあまり動かない)とは比べ物にならないと感心しきりです。一概には言えませんが、これはもしかしたら「時代」のなせるワザなのかもしれません。モノに恵まれた昨今では、演じる側も見る側も何かドキドキ感とか1つの舞台を分かち合い、思う存分に楽しむという気持ちが減退してる気がしてしまうのです。


クナップはその後テノール歌手として地道に活動しております。古巣のウィーン少年合唱団と共演したCDで初めて彼の今の姿と歌声を知ることができました。少年の頃の面影そのままに、しかしとても素敵な青年に成長して、清潔な歌声を聴かせてくれます。



黒ぶちメガネの少年がクナップです。

www.bach-cantatas.com


boysvoice-2.hatenablog.com

*1:団としてソリスト名を明記しない方針というのが変わってきたのが'90年代頃からなのです。

*2:メガネを外して演じてました