萩尾望都著『トーマの心臓』は、年代を超えて愛されている名作です。そしてこの漫画に触発された著名人も多かったようです。萩尾さん自身は、作品を映画/舞台化するのにそれほど積極的な気持ちはなかった、と書いておられましたが。
最初に映画化された『1999年の夏休み』('88年公開、'99年リバイバル上映)については、あくまで”モチーフ”としてトーマの物語世界の使用を許可したそうです。そんな偶然から生まれた作品が思わぬ熱烈なファンを持つカルト映画となりました。
何を隠そう、私もそんな’1999’の熱烈信者(笑)の一人でした。後に金子修介監督*1を「ボクは、決してカルト映画を作るつもりじゃなかったんだけど・・・」と言わしめたこの映画、その魅力とは・・・。
映像美:ヨーロッパ映画のようなあり得ないほどの美しさ
中村由利子さんのテーマ音楽の魅力(CD「風の鏡」)
少年役を少女が演じる不思議な透明感とみずみずしさ
にあると思います。もちろん、原作が持っている繊細な心象風景もこの映画にマッチしていて、同じようで全く異なった物語を形作っております。単純に映画を見ている、というよりもあの美しい風景の中に旅立って、少女のような少年達の繊細な語らいを聞いている、という気分になるのです。
あまりにも愛してしまったため、すでに全場面が脳裏に焼きつき、台詞まで暗誦できるかも・・・?と思うほどです。そして、後にロケ地となった大倉山記念館にも足を運びました。想像していたよりもこじんまりとしていましたが、やはりとても美しい建物で感動しました。(下記の画像は、'98年夏に訪れたときの映像をキャプチャしました。)
大きな古時計はありませんが、とても趣きがあって素敵です。
私自身も今よりずっと若かったので、この映画の中の4人だけの少年達の閉塞感や愛情を求める気持ちにすっかりリンクできたのだと思います。最初こそ、ガーターベルト付の制服にムッチリと見える女の子らしい柔らかな脚や、なよなよしい動きとぎこちない少年の言葉遣いに「うわ~」(汗)と引いたものの、次第に引き込まれてしまいました。
不器用で殻に篭った和彦(大寶智子)は、女の子でも憧れるようなどこか中性的な美しさを持っておりドキドキさせられました。直人(中野みゆき)はクールで大人ぶっているけれども、自分の思いを制御しきれないところが人間らしく、物語の重要人物である薫(宮島依里)も少年と少女の間を行き来するような魅力がありました。
わがままだけど憎めない則夫(水原里絵=深津絵里)のたまに見せる寂しげな表情はまさに美少年そのものの輝きがありました。あの時の少年達はもういないけれども、どこか異次元空間で存在しているのかも、と思うような永遠の美を感じる映画でした。
- 作者: 萩尾望都
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少女漫画の傑作です。漫画文庫有り。
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お宝のあまり、LDも購入していた作品です。
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彼女の音楽には、映像が見えるのです。まさに美しすぎるサウンドです。
*1:監督自身は、むしろかなりの少女マニア(笑)だと思います。